追憶の救世主 SS
02「変わったなぁと思って」
「リースさぁ」
休み時間の事だった。世界史の授業を終えた教師が退室するのをぼんやりと見送っていたリースの耳に、アレクの間の抜けた声が飛び込んでくる。
「何?」
いつになく、悪友はじいっと見つめてくる。どこか含みのある物言いと視線に、眉をひそめた。
「な〜んかさ、変わったよね」
「はぁ?」
突然何を言い出すのだろう、この幼馴染は。怪訝な顔のリースの前で、アレクは尚も饒舌に持論を展開していく。
「緩んだ気がする」
「何がだよ」
「気配」
それは、褒められているのかけなされているのか。
「リースってさ、結構他人に対してバリア貼るっていうか……ま、立ち場的に仕方無い部分はあるだろうけど……隙は滅多に見せないし、心から自分をさらけ出せる相手って居るのかなぁって思う事あったけど」
にやりと笑うと、遠くを見るようにしてアレクは告げる。
「最近、割と素直だよね」
自分ではその辺の実感は皆無なのだが、こいつがそう言うのだから、あながち間違いでもないのだろう。
「イリスを出てる間に、何か良い事でもあったの?」
言われた瞬間、頭に浮かんだ光景が一つだけあった。どちらかと言うと、良い出来事とは呼べないものだが。確かにあれは、自分にとって大きな出来事だっただろうと、なんとなくそう思う。
「……さあな」
胸中の答えとは違う事を言葉に乗せる。口元が少し緩む。リースのそんな表情の変化を、目ざといアレクなら絶対に気づいているはずだったが、彼は緩く笑っただけで、それ以上何も言ってはこなかった。
TOP
** Copyright (c) takako. All rights reserved. **