追憶の救世主 SS

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09「これが漢のロマンだ」
台詞で10の御題より【SNOW STORM様提供】


 「それにしても。多少童顔ではあるけど、見てくれは悪く無いよなぁ」
 昼さがり。たまたまエラリア城中で遭遇したアキが、突然そう話を振って来る。
 「……何の話だよ?」
 「あれだよ、リサ姉の使用人」
 アキは、幼いころからリサの事を親しみをこめてそう呼ぶ。そんな彼の口から飛び出したまさかの人物の事柄に、リースはますます首をひねった。リサの使用人とは、シズクの事だ。
 「ま、俺のアリスには到底及ばねーけど。ただ、アリスが絶対に持ち得ないものを持っているってのは事実だ」
 「へぇ、あいつがアリスに勝るものってなんだよ」
 そんなもの、せいぜい運動能力くらいしか思いつかない。長旅が出来るくらいの体力はあるが、アリスは基本的にインドア派で、完全アウトドア派のシズクにそう言う面では軍配が上がる。しかし、アキはシズクと出会ってそう時間が経っていないから、もちろんそんな事は知らないだろう。ちなみに、アリスを己の所有物扱いした点についてはさらりとスルーしておく。
 「さすがのお前もその辺は分かるだろうが」
 スルーされた件は気にしない事に決めたようで、アキはにやりと意味ありげに笑うと、少しだけ声のトーンを落としてくる。何でも無い話をしているつもりだが、あまり人に聞かれてはいけない話を振られているような雰囲気で、益々もって意味が分からない。
 「アリスには越えられない壁だよな」
 「?」
 「リサ姉には及ばないまでも、なかなか丁度良いサイズで」
 「…………」
 「男の理想としては多分あれくらいの大きさが――」
 「――何の話をしている」
 やっとどういう事か理解して、声のトーンを落とし、呆れ顔を浮かべるリースを見ても、尚もアキは飄々としていた。
 「何をって、漢のロマンの話をだなぁ」
 何か自分はおかしな事でも言ったかとばかりに、ニヤニヤ顔をやめず、この話題を中断させる気もない様子だ。
 「といっても、人間、サイズじゃないよなぁ。俺が欲しいと思うのはアリスだけだしさ。そう、いくらあいつが貧――」
 「それ以上喋るな変態!」
 そう叫びつつも、心の片隅ではどこか納得してしまっている自分が居る事に気づき、それが益々リースの苛立ちを増大させるのだった。
 ちなみに、この直後リースの手によって変態成敗が行われたのは言うまでも無い。




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